東野圭吾の「疾風ロンド」の感想 

疾風ロンド 東野圭吾 実業之日本社文庫

 

東野圭吾氏の作品は、むかし「容疑者Xの献身」を読んだきりで、久しぶりに読みました。

冒頭で、犯人が雪山に何かを隠し、それをネタに脅迫を企てるシーンがあるんですが、そこからどうストーリーが展開していくのかなと思っていたら、意外にもその犯人があっさりと死んでしまいます。これはかなり意表を突かれました。そのため、では、そこから、どうなるのかなと思って読み進めていったのですが、とくにハラハラするということはなく、読めました。

 

この小説は、作者がミステリー作家である東野圭吾氏なので、括りとしてはサスペンスとかミステリーというジャンル分けをされるのでしょうが、実は「愛」とか「絆」というものについて書かれている作品だと思います。愛というとどう思われるか、その定義は人によって違うかもしれませんが、この作品では、自分以外の相手のことをどれだけ思うか、その気持ちが愛なのではないかと思いました。その意味で、家族愛、親子愛、姉弟愛が描かれている作品です。

それともうひとつは絆になるでしょうか。絆に関しては、ある意味「雨降って地固まる」的な内容になっています。その雨の役割を果たしているのが、この物語の根幹をなす、「生物兵器」なんです。多くの人間を一瞬のうちに殺してしまう恐ろしい生物兵器が、人と人の絆を深めていく道具として存在しているわけで、その辺はユニークな印象です。だから、生物兵器が拡散されてしまうのではないかというドキドキ感なんかは残念ながらなかったように思います。

 

この小説は、著者の文庫書き下ろしです。

 

ハラハラが止まらない長編ミステリーという謳い文句が本の裏表紙に書かれていますが、そういう感じ方はどう読み進めていっても、なかったです。ただ、ミステリーということで結末にどんでん返しがあるわけですが、それが良いい意味で「愛」なんです。なので最後にやられたという感覚はなく、むしろ他に方法はなかったのかなという少し残念な気になりました。がっかりしたという意味ではありません。登場人物がみな愛ある存在だったのが、最後にはその愛の行き場をなくしてしまったのではないかな、という気になりました。ちなみに、電話の声だけの存在である主人公の上司だけは、愛を感じませんでした。非常に自分本位の典型的な日本的組織の上司という存在でしたね。